⾃分史・⾃叙伝・⾃伝の代筆をライターに依頼するために必要なこと

 

増えてきた自分史・自叙伝・自伝などの代筆相談

「自分史や自叙伝を書きたいので相談に乗ってほしい」

「これまでの経験を本にしたいので代筆をお願いしたい」

そんなお問い合わせが増えてきました。

私は、主に書店売りのビジネス書の書籍ライターをしていることもあり、経営者の方、ご自身で何かビジネスをされている方からの相談が多いです。自分史や自叙伝といえばなんとなく個人のイメージがあるので、私が相談をお受けするのは、正確にいえば経営者伝や社史と表現したほうがいいかもしれません。もちろん個人の方でもまったく問題なく代筆が可能です。

自分史・自叙伝・自伝は自分で書く必要はありません

さて、自分史や自叙伝を出したいなと思っても、多くの人が壁にぶつかります。

その壁とは「書く」ことです。

国文学者の尾川正二先生は著書で「文章を書くということは、一人の人間の能力全部を出し尽くすということである」と記されていました。一冊書き上げるということは、まさにカンナで身を削るように自分を出し切る作業なのです。読むというインプットは誰でもできても、書くというアウトプットはそれほど難しいということです。

まず結論を言いましょう。

自分史や自叙伝、経営者伝を検討されている場合、自分で書く必要はありません。理由は次のとおりです。


  • ①単純に、書くのは難しい
  • ②人に読んでもらう文章を書くのは、さらに難しい
  • ③労力と時間が奪われる
  • ④餅は餅屋に任せたほうが、結局はうまくいく

 

①単純に、書くのは難しい

繰り返しになりますが、長い文章を書くのは骨の折れる作業です。文章を書き慣れていない人がいきなり取り組もうとしても、「さて、どうしたものか」と立ち止まってしまうはずです。

それでも強引に、「とにかく自分の思うままに書き始めてみよう!」と筆を進めてしまったら、十中八九、途中で挫折します。航海図もなく大海原に舟をこぎ出すようなもので、素人の著者が設計図なき状態で執筆を進めると迷走してしまうでしょう。

②人に読んでもらう文章を書くのは、さらに難しい

とはいっても、言葉どおり〝書くだけ〟なら、どうにかして脱稿までたどり着けるかもしれません。

ですが、ただ書くよりもさらに難しいことがあります。

それは人を惹きつけ、読まれる文章を書くことです。

著者自身の経験を、著者自身の主観のみで、著者自身の思うがままに書いた文章を読まされる人は正直、苦痛でしょう。著者自身が書きたいことを書きたいように書いた文章は、端的にいって面白くないのです。

著者が主観を抑え、読者のワクワクを客観的に意識しながら、引き込まれるような文章を意識的に展開していくのは簡単ではありません。

③労力と時間が奪われる

人を惹きつける文章を書くこと自体が難しいうえに、著者自身が書くことの根本的な問題もあります。

それは労力と時間が奪われる点です。

とくに経営者の方は切実な問題ではないでしょうか。ただでさえ日々の経営で忙しいのに、そのうえ慣れない執筆作業にまで首を突っ込んでしまうと……文章を書くのが好きでたまらないという方以外は、途中で放り出してしまうでしょう。そんなことに頭を悩ませるのではなく、経営者はどうぞ経営の舵取りに専念されてください。

もっとも、リタイアして時間に余裕のある方をはじめ、個人の著者の場合はじっくりと原稿に向き合うのも悪くないかもしれません。自分史や自叙伝を書くというプロセス自体が自らの人生の棚卸しになるからです。

(※ニーズがあれば、自分史や自叙伝の書き方をお伝えする講座でも開こうかなと思います。タイトルは、『世界一わかりやすい「本の書き方」講座』笑)

④餅は餅屋に任せたほうが、結局はうまくいく

自分で書かないのであれば、どうすればいいのか。

そこで必要となるのが任せることです。

餅は餅屋というように、自分の得意分野や自社の本業以外はその道のプロフェッショナルに任せたほうが結局はうまく運ぶものです。成果物としての質も高まるでしょう。

ライターに代筆を任せるのは相当ハードルが高い

ところが矛盾するようなことを言いますが、厄介なことがあります。

いざ誰かに代筆をお願いしようと思っても、誰にどうやって代筆を依頼すればよいかわからないのです。

「書く」ことの壁を乗り越えようと思ったら、今度は「誰に代筆してもらうか」という新たな壁が出現するわけです。

ライターに代筆を依頼する難しさは2つの側面があります。


  • ①そもそもライターを知らない難しさ
  • ②自分に合ったライターに代筆を依頼する難しさ

 

①そもそもライターを知らない難しさ

ライターという職業は特殊なだけに、ライターを知ってるよという人はあまりいないはずです。ライターという、見たことも会ったこともない人物に、極めてプライベートな内容を代わりに書いてもらう、そのイメージを明確に持てる人は少ないのではないでしょうか。

②自分に合ったライターに代筆を依頼する難しさ

これはライターに代筆を依頼する際に最も重要であり、また最も難しい点でもあります。

私自身、大手出版社から出される本の執筆代行(書籍ライティングといいます)を70冊以上行ってきました。その経験で断言できるのは、期待どおりの原稿、期待以上の原稿ができ上るかどうかの決め手は、「誰に書いてもらうのか」です。

当たり前ですが、本というメディアの本質的な価値は文章そのものです。その文章を書くのがライターであれば、その本の価値はライターによって左右されることになります。

このように、本の価値を決定づけるのはライターの能力であるにもかかわらず、そのライターを見つけるのが難しいという現実がある。

さらに、ただ文章がうまいライターに依頼するだけではだめで、著者とライターの相性がじつはとっても大事なのです。

自分に合ったライターを見つけ、代筆を依頼する方法

じゃあどうやって自分にぴったりのライターを見つけ、代筆を依頼すればいいのか。

ここでは書店売りを前提としない自分史や自叙伝、自伝の執筆をライターに依頼するのを前提に考えます。(つまり出版社に依頼しないケース)

出版社に相談すれば、本の執筆を専門に行う一定レベル以上の書籍ライターを紹介してもらえる確率は高くなりますが、問題は、著者自身が探す場合です。

一般にはネットを使って探すことになりますが、ライターを名乗る人はたくさんいるだけに見極めるのは難しいはずです。

そこで信頼できる腕利きのライター、自分に合ったライターを見つける方法をお伝えしましょう。


  • ①絶対条件は実績
  • ②得意分野
  • ③バックグラウンドの発信
  • ④「顔の見えるライターかどうか」

 

①絶対条件は実績

最近は、自分のブログや自サイトにSEO対策を施した文章を掲載し、アフィリエイトの収入を得るウェブライターが増えています。もちろん文章力の高いウェブライターもたくさんいると思いますが、自分史や自叙伝、自伝などの代筆をウェブライターに頼んではいけません。

ウェブライターはアフィリエイト記事を書くのは得意ですが、著者の話を聞き、その聞いた話をもとにストーリー展開を考えた構成を立て、著者に成り代わって書く実力がないと考えられるからです。

さらっと言っているようですが、3つのポイントがあります。「著者の話を聞き(=取材力)」、「その聞いた話をもとにストーリー展開を考えた構成を立て(=構成力)」、「著者に成り代わって書く実力(=文章力)」という3点です。

なかでも、いわゆる書籍ライティングで重要なのが「取材力」です。一冊の本を書く書籍ライターには、著者と信頼関係を築く人間力、相手の話を共感を持って耳を傾ける聞く力、著者から書くべき話を聞き出す質問力、著者に気持ちよく話してもらうコミュニケーション力などが求められます。

これらは一朝一夕に磨かれる能力ではありません。場数を踏み、少しずつ築き上げていくしかありません。自宅でアフィリエイト記事を書いているだけでは培われない高度な技術(あるいは一部は生まれ持った資質)であり、著者の期待に応えるために不可欠な力です。

これはウェブライターに依頼してはいけない理由であるとともに、著者とライターの相性が大事という根拠でもあります。いくら実力のあるライターでも、相性によってはうまく運ばない可能性は残念ながらあります。

前置きが長くなりましたが、自分史や自叙伝の執筆を頼めるライターかを見分ける第1の方法は、そのライターが公開している実績をよく確かめることです。

実績が分からないライターは論外として、ブログ記事やアフィリエイト記事を書いているような場合、そのライターは候補から外してください。

そのうえで、インタビュー原稿の実績を確認しましょう。書籍案件の実績を公開していればベスト、そうでなくても雑誌(できればビジネス誌)のインタビュー原稿に長けているライターであれば自分史や自叙伝の代筆は可能かと思います。

ただし、雑誌記事などの短い記事しか経験のないライターの場合、前記の「構成力」に欠け、読者を引き込むストーリー性のある構成と原稿を作成するのは難しいかもしれません。

まとめると、実績で望ましいのは書籍の代筆経験が豊富であること、書籍の実績が分からなくても、雑誌などのインタビュー原稿を数多くこなしていること、この2点です。

②得意分野

じつはライターといっても得意分野はさまざまです。前述のウェブライターはライターとして含めない前提でまとめると、ライターが活躍する分野は「広告」「雑誌」「書籍」「ルポ」などでしょうか。

「広告」は文字どおり広告文を考えるコピーライターのことで、一般に書籍などの長文やインタビュー原稿を得意としません。

「雑誌」の場合もよくあるグルメ雑誌やタウン誌で活躍しているライターは長文の執筆は厳しいと思います(理由は割愛)。雑誌でもビジネス誌などを主戦場に経営者などの〝偉いさん〟に取材する場数を踏んでいるライターは一定の実力はあるとみていいです。

「書籍」は本の執筆をメインに手がけているライターなので、実績として一番望ましいライターです。

「ルポ」とはジャーナリストといったほうがイメージしやすいかもしれません。ようするに、自らの問題意識をもとに取材活動を行い、社会に問題を提起するような文章を書く人のことです(ざっくりいえば)。書き手としての能力はピカ一かもしれませんが、人の話を聞いてその人に成り代わって書く、という柔軟性や共感性がどうか……というところでしょうか。

長くなりましたが、ようするに、ライターとひと口にいっても得意分野があるので、実績などを見て確認しましょう、ということです。

③バックグラウンドの発信

これは意外と大事だと思っています。バックグラウンドとはどういうことかというと、そのライター自身の背景です。ライターとの相性を、できるならば依頼する前に見当をつけたいものです。そこで参考になるのが、ライターが発信しているブログやSNSなどの情報です。そうしたプライベートな情報には、ライターの素の一面が表れているものです。

ライターのSNSアカウントが分かる場合、チェックして人柄や考え方などに触れてみましょう。もちろん、ネットでの発信だけでその人のすべてを理解できるわけではありませんが、まったく情報がないよりも人となりの輪郭をつかむことはできるはずです。

④「顔の見えるライターかどうか」

結論としては、「顔の見えるライターかどうか」がいちばん重要かもしれません。ライターとしての実績は申し分ないという前提で、最後のひと押しがなにかといえば、やはり「この人の相談してみようかな」と思わせるなにかでしょう。

その「なにか」とは、「なんとなく自分に合いそう」「この人なら信頼できそうだ」という、実績を超えた人としての信頼の部分ではないでしょうか。

そうした顔の見えるライターが見つかれば、思い切って相談してみることです。それでも残念ながら、ライターには当たり外れがあるのも事実です。

本一冊を代筆する書籍ライティングという世界は、私自身が10年以上経験してきたのでわかりますが、やはり難しいです。トラブルの話もよく聞きますし、実際にトラブルになった案件を引き継いだこともあります。

ただ、自慢するわけではないのですが、私自身はトラブルはほとんど経験がありません。共感力だけが取り柄(笑)なので、著者さんにぐっと入り込み、二人三脚で一生懸命に仕事をすることを大事にしてきました。

さておき。

最近、自分史や自叙伝などの相談が多いので、「⾃分史・⾃叙伝・⾃伝の代筆をライターに依頼するために必要なこと」というタイトルで記事を書こうと思い立ち、書き進めると、かなり端折って書いてもこれだけの文字量(5000文字以上)になってしまいました。。

ほんとうはまだまだ言い足りません。10~20分の1くらいしか書いてない気がします。書ききれなかった思いは、また別の機会に。

著者の皆様が、この記事を参考に、どうか良いライターと巡り合えますように。

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