ライターのぼくが時間を大切にするようになった失敗談(1)

① 遅れることで迷惑をかける人を理解できていなかった

社会人としていちばん大事にしている心構えは何ですか?

そう聞かれると、

「時間に遅れないこと」

と迷いなく答えます。

待ち合わせの時間に遅れないのはもちろん、できる限り、自分が先に現地に着くよう心がけています。

具体的には、15分前には待ち合わせ場所に居るようにしています。(さらに現地には1時間ほど早くつき、近くのカフェなどで資料を読み込むなどしています)

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これまで時間にルーズな人を何人も見てきました。

そうした人に共通するのは、時間に限らず、あらゆる面でルーズだということ。

一事が万事。

時間に対する姿勢が、すべての局面に表れる、そんな気がしてなりません。

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時間にこだわるようになった原体験が2つあります。いずれも強烈な失敗談です。

1つ目は、10年以上も前の話。

広告制作プロダクションに入社し、コピーライターになって2年目のころ。

案件の打ち合わせのため、コピーライターの上司と大阪のJR環状線「西九条駅」で待ち合わせをしていました。

十分に間に合うよう家を出ましたが、何を思ったのか環状線を反対方向に乗ってしまい、待ち合わせ時間に5分ほど遅刻してしまったのです。

じつはこの日、クライアントの方々、その案件を監査する立場の方も一緒に待ち合わせをしていました。

・クライアントの方々
・監査をする人
・コピーライターの上司
・駆け出しコピーライターの高橋

この4つの立場の人が駅で落ち合い、クライアントの事業所に向かう予定だったのです。

遅れて到着したぼくは、上司の姿を見た瞬間に状況を理解しました。後輩が遅刻しているという局面のなか、上司はクライアントとの間を必死に持たせてくれていたのです。

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自分が遅れることで最も迷惑をかけるのは誰なのか。

ぼくは正しく理解できていませんでした。

上司はクライアントを前にして、どれほど辛い思いをされたことか。

そう思うと、時間に対して甘い認識を持っていた自身を痛罵しました。

同時に、異なる立場の人が集まる待ち合わせでは、自分が遅れると誰に迷惑を与えるのか、常に考えるようになりました。

以降、待ち合わせにはギリギリ間に合う時間ではなく、最低でも15分前、しかも理想は自分がいちばん早く現地に着くこと、このように自身に課すことに決めたのです。

いまでも西九条駅に降り立つと、当時の苦い経験が頭をよぎります。

次回の記事はこちら→『ライターのぼくが時間を大切にするようになった失敗談(2)

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書籍ライターに求められる能力は文章力ではない?

書籍の執筆を専門に行うゴーストライターには文章力は求められない――。

ライティングのスキルに関する書籍やブログを読んでいると、そうした意見を目にすることがあります。

いやいや、そんなことは断じてありません。

ライターという職業人は文章を書く専門家です。書籍ライターに限っていえば、著者が表現しきれない思いや経験、ノウハウを読者に届くよう文章にまとめる役割を担っていますから、文章力はいわば生命線なわけです。

その肝心の文章力がなければ書籍ライターは務まりません。

ネタや企画を提案できるライターのほうが重宝、ヒアリング力が不可欠、コミュニケーション力のほうが大事、事実をベースとした実のある原稿が書ければ文章力はさほど問わない……いろいろ意見はあると思いますが、やはり文章力が備わっているのが前提です。

※ライターに求められるコミュニケーション力(『書籍ライターで生きていくには「コミュニケーション力」が絶対必要(1)』)、ヒアリング力については別項目を立てて、自分が大切にしていることをお伝えしていきます。

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ライターの文章が多少下手でも、編集者がうまくまとめてくれる。

そういう声もあります。

編集者のなかには、ライターの原稿をあざやかにブラッシュアップし、構成・文章ともに、ひとクラス上のレベルに引き上げてしまう方もいます。

力のある編集者と組むことでライターが育つという側面もありますし、ぼく自身も編集者の方々の助言によって成長することができてきました。

ただし、書籍ライターに文章力は必要ない、文章が下手でも編集者が直してくれる、そうした甘えを抱いた時点でライター失格だと思うのです。

ライターはその道のプロですから、自らの文章を彫琢する努力を怠ってはならない、そう意識しています。

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書籍ライターに文章力は必要ない、その真意はたぶん、こういうことだと思います。

小説のような美しい日本語を書く必要はなく、著者の伝えたい内容が読者に伝わる実用的な文章になっていれば、その巧拙は必ずしも問われることはない。

したがって書籍ライターに求められる文章力とは、

著者の伝えたい内容を、読者が知りたい情報に昇華させる力
読者が知りたい情報を、読者に届くよう文章としてまとめる力

ということになるでしょうか。

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いくら美しい文章を書いたとしても、読者に伝わらなければ意味がありません。その点で「文章力は必要ない」という意見は頷けます。

しかし、読者に伝わる文章を書こうと思うと、あるいは編集者の手を煩わせないようにしようと思うと、書籍ライターにとって文章力は備わっていて当たり前、それを高める努力をするのがプロとしての矜持、となるはずです。

自戒を込めたライターの独り言です。

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書籍ライターに求められる能力の3要素。

『「コピーライターとフリーライターって何が違うの?」』でふれたように、書籍ライターは「代弁者」という立場が最大のポイントということでした。

どういうことか?

ライターの主観的見解を世に問うのではなく、あくまで著者自身の思いやスキルを代弁する立場ということです。

そのために書籍ライターに求められる要素は次の3つ。

① 引き出す
② 構成する
③ 書き著す

著者の思いやノウハウ、潜在的な考えなどを「引き出し」、その内容が読者に届くよう「構成」し、(著者が伝えたいように)読者に伝わる文章として「書き著す」こと。

「引き出す」ためにはヒアリング力が求められます。ぼくがインタビューで気をつけていることは別項目でお伝えします。

著者から本音を引き出すためには、大前提としてライター自身が著者から信頼されなければなりません。書籍ライターには著者と信頼関係を結ぶ人間力が不可欠です。

「構成する」ためには情報を整理する力が求められます。

個人的には書籍は「構成の美学」だと思っています。タイトルが書籍全体の軸となり、その軸に沿って章を展開する。各章には関連する項目が並ぶ。

書籍全体の構成が論理の飛躍や破綻なく、スムーズに流れてこそ、著者の思いが読者によどみなく伝わる本になる。

美しい本は、凛とした一本の立ち木のようです。

大地に根を張り、天に向かって太い幹を伸ばし、その幹から枝が分かれ、葉が生い茂り実をつける。

そういう立ち木は生命力があり、存在自体が神聖で美しい。構成が隅々にまで行き届いた本もそんな木の佇まい、生命力があります。

相手に伝わる読みやすい文章が書けるかどうかは、正直、この構成力にかかっているといってもいいかもしれません。

「書き著す」力はライターの真骨頂です。構成した材料を美味しく食べられるよう、いかに料理するか。情報の料理人としての腕が求められます。

文章を書くポイントはたくさんありますが、ぼくが大事にしている一つは、著名なブックライター・上阪さんが著書(『職業、ブックライター。』)で打ち出されていた「相場感」。

著者が伝えたい内容を、読者が読みたい内容に転換するためには、「世間の人たちが求めているもの=相場」を理解する感性が必要です。

ぼく自身、ここで説明した「3つの能力+人間力」を高いレベルで満たす領域にはまだまだ至っていませんが、編集者や著者に支えられながら、「一人でも多くの人の役に立つこと、一人でも多くの人に感動や喜び、希望を与えること」を目指して日々努力しています。

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「コピーライターとフリーライターって何が違うの?」

ライターをしているとたまに聞かれます。

「コピーライターとフリーライター、何が違うの?」

一緒といえば一緒なのですが、違うといえば違う。少なくともライター本人の心構えとしては、明らかに「違う」んです。

ものすごい独断で、おそろしく強引に「ライター」の種類を体系化してみました。

 

 

ライターの種類ざっくりいうと、「コピーライター」と「フリーライター系」に分かれ、フリーライターは「受身の仕事」と「署名記事の仕事」に細分化されるという感じです。

マトリクスで4つの領域に分類したほうが整理しやすいかもしれませんが、「代弁者的立場」と「主観的立場」に大別するためにあえてこの図のようにしました。(ジャーナリストやルポライターがこの位置づけなのかなど突っ込みどころ満載ですが…)

いろいろなライターがいる中で、コピーライターは図のように、広告のキャッチコピーを書く人。

本人の心構えとしては、クライアントを背負って立つ意識が強いです。クライアントの商品やサービスを売るための仕事ですから。

コピーライターは広告・広報・IRの文章担当の立場で、クライアントを強力にサポートしているという自負があります。

だから「コピーライター」という肩書をつけた時点で、「あなたの会社や商品・サービスを世に売り込むのが得意ですよ」と宣伝するようなもんです。

そのプレッシャーに耐えられるだけの実力と自信がある人は、「コピーライター」と名乗るのだと思います。

一方のフリーライターは、〝系〟とつけたようにライターの総称みたいなもの。実体はあいまいで、手がける媒体や得意分野が違ってきます。

それぞれの説明は割愛しますが、分類は「受身の仕事」と「署名記事の仕事」の2つ。

受身の仕事は「代弁者的立場」と言い換えも可能で、つまりは発注者がいて、その発注者の要求に忠実に応える、あるいは媒体の分野や特性を踏まえて文章を書く人。立場としてはコピーライターと似ていますね。

署名記事の仕事はそのままなので説明は省きます。

ぼくは「フリーライター系」の中でも「受身の仕事」、さらにその中の「書籍系ライター」です。

書籍ライターのスタンスは、あくまで著者の代弁者として一冊の書籍にまとめること。

この「代弁者」という立場が最大のポイントなんです(『書籍ライターに求められる能力の3要素。 』で続きを書いています)。

ライターの仕事は、実際にはこんなにきれいに体系化できません。得意とする媒体や専門分野を持ちながら、その周辺の仕事も請ける。それがライターです。

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「どうやってライターになったんですか?」

そう聞かれることがよくあります。

「ライターは専門性の高い職業なので、実績がないと仕事を得るのは難しいはず。でもどんなライターも実績のない素人時代があるわけだから、最初の一歩をどう踏み出した?」

そんな疑問も言外に含まれている気がします。

一概にいえませんが、ライターになる道は次の3つが王道の気がします(フリーランスのライター前提)。

①  広告代理店・広告制作プロダクション出身
②  出版社や編集プロダクション出身
③  新聞記者出身

※ウェブライター、ブログライターはここでははぶいています。

このうち、「③」はライターとしての実力は別格な気がします。

そのほか、「専門性の強い職業出身(金融やIT系企業で働いた経験をもとにライターに転身)」「リクルート関連企業出身」なども。

ぼくの場合は「①」。

大学卒業後に入った会社を「ライターになりたい!」と2年弱で退職。アジアを放浪したのち、パチンコ屋でバイトしながら大阪の広告制作プロダクションに履歴書を送り、素人ながら拾ってもらいました。

ここで疑問があるはず。

「素人なのに、どうやって採用された?」

広告関係の会社は即戦力を求めているので、基本、実績がないと採用されません。

ぼくの場合、最初に5社ほどのプロダクションに履歴書を送ったところ、連絡すらもらえませんでした。

そこで考えたんです。

「ライターの実績はないけど、文章は書けると思ってもらえばええんちゃうか」――と。

そこで履歴書を送る際、趣味で書いていたエッセイを同封したんです。

するとある広告制作プロダクションから面接に呼ばれました。

面接時の社長さんの言葉が忘れられません。

「エッセイ読んだで。下手くそやな。でも人情の機敏を感じる文章や。コピーライターは人の心を打つコピーを書く専門家。君やったらいけるんちゃうか」

履歴書に同封したしょーもないエッセイが採用の決め手になったわけでした。

その社長さんの心を動かしたという点で、冗談ではなく、すでにぼくは立派なコピーライターだったわけです。

ライターになりたい人は実績はなくても、その実績に変わるもの――具体的には「自分は書ける」ことを証明する何かをアピールすることです。

ぼくが採用されたのは2002年。ブログもない時代でした。いまはウェブを通じて自分の文章を発表できます。

ライター第一歩は、〝自分という商品を売り込み、相手の心を動かす文章を書くこと〟から始まるわけですね。

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